2014年07月30日

易経から学ぶファシリテーション(06)

■グループに「不易」を観るとは■

 前回は、「変易」のことを書きましたが、今回は「不易」のことに触れます。「変易」「不易」があらわす、循環・不変のサイクルは、すべての事象に通ずる栄枯盛衰の道理と言われています。グループ体験の中での「変易」が個人のプロセス、対人関係のプロセス、グループのプロセスとしてとらえるならば、その変化の法則性、個人の成長過程やグループの変化過程が「不易」としてとらえることができるながら、ファシリテーションには大きな視点となるのは間違いがありません。

 たとえば、個人が自分の体験を語る変化過程には、4つのステップがあるというお話があります。第1ステージは「断片的な要素を羅列する初歩的なステージ」、第2ステージは「状況まで語ることができる状況的ステージ」、第3ステージは「パターンとして語ることができるパターンステージ」、第4ステージは「自分のパターンを修正・変更できるパターンステージ」です。(プロセス・エデュケーションを参照)

 グループの変化・発達段階も、さまざまな研究者が多くの研究をレビューしながら、提案しています。シリーズ(04)で、紹介したタックマン・モデルも一つです。その他に、たとえば、ラコウシア(Lacoursiere,1980)は、さまざまな分野での200にのぼる集団発達研究をレビューして、下記のような発達モデルを提唱しています。彼は、集団の発達過程を社会的情動的(social-emotional)もしくは課題関連的(task-relatied)行動にしたがい、5つの段階に分けて説明しています。それらの段階は図?に示されています。「導入(orientation)」−「不満足(dissatisfaction)」−「解決(resolution)」−「生産(production)」−「終結(termination)」の段階として命名しています。

 グループは成長する・発達するという視点をもてば、今のグループの状況をよく観て、そのグループに働きかけるファシリテーションが有効になるでしょう。グループのメンバー間において、気持ちの上でお互いに懸念を強くあり、メンバー相互に不信な思いが渦巻いている中で、何か生産性を上げようという意図で働きかけてもそのファシリテーションは有効にならないでしょう。早く実りが得たいと思って、凍った冬の題意に種をまいても秋に実りが得られないがごとくです。春に種をまくために冬の大地を滋養に富んだ豊かな土壌を作る、雪に覆われた静かな時ように、今のグループの状況で一人ひとりの思いの違いや関係のありようを丁寧に吟味し、関係性が熟成するように豊かに育むためのファシリテーションが大切になるということを教えてくれています。

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2014年07月29日

易経に学ぶファシリテーション(05)

■グループの中に「変易」を観る■

 グループの変化とファシリテーションのありように、易経における「変易・不易・易簡」があると書かせていただきました。ここからはあっこちゃん(2012)を参照させていただきます。易経の「易」とは、変わる、「変化する」と言うことだそうです。そして、「易」の一字には、「変易」「不易」「易簡(簡易)」という3つの意味があるそうです。

 「変易」とは、この世の万物は一時たりとも変化しないものはなく絶えず変化し続けているということです。

 「不易」とは、「不変」ということで、すべてのものは変化しているが、春夏秋冬の季節のめぐりや朝昼晩といった一日のめぐりのように、一定不変の「変わらない」法則性があるということです。

 「易簡」とは、「易しい、簡単」という意味です。「変易」「不易」があらわす変化と不変の法則に基づいていることを私たち人間が理解できれば、何事もわかりやすく、この世での生活も行きやすくなるということです。

 グループ体験に場面を移してみましょう。ファシリテーターが関わるグループは、まさに一刻一刻変化しています。グループのメンバーとしている人の気持ちや考え、行動が一瞬一瞬変化します。そして、そのメンバーの変化がグループの変化をもたらします。またグループの変化が個人のありようも変えていきます。そこに起こっていること、それをプロセス(人間関係の過程)と津村はよんでいますが、そのプロセスは川の流れのように変化をし続けているのです。グループの何か気になることがメンバーの中に起こり、そのことを発言すれば、その状況は変わります。気になることを公にしなければ、またさらにその状況は変化し、そのメンバーにとってよくない状況はさらに深刻になっていきます。このグループのプロセス、対人関係のプロセス、個人のプロセスに着目するということは、ファシリテーションにおいて、働きかけてもかけなくても、グループやメンバー個人、またメンバー間の関係はすべて「変易」であるということをしっかり認識しておく必要があります。

==========ずいぶん前の記事ですが==========

グループ:その誕生から死までのサイクル「集団行動」、「グループの課題・問題」、「対人的問題」と「リーダーシップの問題」のそれぞれの次元における集団発達のモデルの考察を行っている。それらによると、基本的には、「ステージT:幼児期(Forming)」、「ステージU:青年期(Storming)」、「ステージV:成人期(Norming & Rerforming)」の位相があることが示されている。さらに、最終ステージとして「変容(Tranforming)」の位相があることを示している。
1987 南山短期大学人間関係研究センター紀要『人間関係』Vol.4,p.130-136. R.C.Weber 1982 The group: A cycle from birth to death. In L.porter & B.Mohr(Eds.), Reading book: For human relations training, NTL Institute.
      ↓
http://www.jiel.jp/minilec-pdf/group-tanjosimade.pdf
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2014年07月28日

易経に学ぶファシリテーション(04)

■グループの変化モデルに四季をみる■

 (03)の記事の中で、グループの中にも春夏秋冬があると書きました。グループの変化の流れを「グループの誕生から死」という表現で表すことがあります。グループ体験を重ねていくと、グループのメンバー間の関係、またグループの生産性(目標達成の度合い)の変化などいろいろな視点からグループの変化を捉えることができます。また、機会があれば、いやこのシリーズの合間に「個とグループの変化モデル」といったシリーズも書かなければと思い始めました。こちらは、このシリーズがもう少し落ち着いてから書きます。

 と言いながら、読者の方々に比較的知られているのはタックマンのモデルでしょうか?
 タックマン(Tuckman,1965)は、小集団の発達に関する50ほどの研究をレビューしています。そして、グループの現象を社会的または対人的な視点によるグループの構造と、相互作用の内容としてのグループの課題に関する動きとの二領域から分類を試みています。その結果、一般的な発達段階として4つの位相を見いだしています。彼は、これらの位相を簡潔に「形成(forming)」−「混乱(storming)」−「規範化(norming)」−「遂行(performing)」として記述しています。きっとこうした位相を考えると、グループにも季節があるといえるのではないでしょうか?

 さて、この変化の捉え方として、易経では「変易・不易・易簡」という視点をもつことを教えてくれています。これも、グループ体験を扱うファシリテーターにとってとても大切な極意です。

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2014年07月27日

易経に学ぶファシリテーション(03)

■四季と時中のお話より■

 易経のお話を聴く中で、あっこちゃんが何度も言っているのが、「(大)自然に学ぶ!」ということです。時は、春夏秋冬巡ります。春には春のことをする。冬には冬のことをする。その時にぴったりとあたることをすることを「時中」というそうです。その時の「時流」に乗ることとは全く異なり、時流に乗ることは、時流とともに滅びるとのことです。これがタイトルとなっているのが竹村さんの新刊「リーダーの易経」の帯に「龍が教える帝王学(乾為天)時流を追うものは時流とともに滅びる 時中を観よ」と書かれています。すでにこの言葉にグサッときますね。寒く冷たい季節の中で、種を植えて早く育てよと力を入れても実を結ばないということのようです。

 易経のお話の中で、竹村さんが何度も伝えていらっしゃったのが、易経は、たとえの話です。そう!この隠喩を通して、何を私たちが学ぶかと言うことが大切になるということです。その冬の季節には、冬枯れた草木が土に落ち、春に種を植えられそれが十分に育つための豊かな土地を耕すときといえるのでしょう。それは、力を備えるチャンスの時とでも言えるでしょう。

 こうした時は、グループ体験の中にも結構あります。きっと経験された人がいると思います。それは、始まりの時、春夏秋冬、いつも春から始まるとは限りません。グループが生まれ落ちた季節が、冬の時かもしれないのです。また、グループが展開していく中で、疲れ果て、立ち止まり、前に進むことへの力が乏しくなってきている時があるかもしれません。その時に、ファシリテーターが一人、がんばってこのグループを何とかしようと働きかけてもグループのメンバーには意味をなさないことがあるのではないでしょうか?

 最初の一人ひとりが不安な気持ちで集まり、グループの目標を形成しようとしている時に、なんとか目標を作らせようとして、いろいろと働きかけても無駄な力かもしれません。ファシリテーションとはそのような時にある働きかけが必要なのでしょう。このことを易経が教えてくれています。目標づくりより前に、一人ひとりが今どのような思いでここ(グループの中)にいるのか丁寧に掘り起こし、一人ひとりの力を耕すことが必要なのでしょう。グループ活動の途中でもそのようなことが必要なときがあります。

 「四季と時中」まさにグループの四季を観て、時中である適切な対処ができることがファシリテーションの極意でしょう。

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2014年07月26日

易経に学ぶファシリテーション(02)

■グループの目標によって異なるファシリテーション■

 グループの目標を明確にし共有する働きがファシリテーターの大切な働きと前回書きました。このグループの目標によって、ファシリテーターの働きかけが大きく異なります。特定の任務を与えられ、その問題を解決すべく誕生したプロジェクト・グループにおいては、課題を解決することが大きな目標となるでしょう。

一方、グループ体験を通して、自分の人とのかかわり方やグループのマネジメントを学ぼうとするグループでは一人ひとりの中におこるプロセスを丁寧に扱いながらすすめることが目標となるでしょう。それぞれのファシリテーターの働きは、異なるものです。一つの例でいいますと、何か話し合いのために障害が生まれたら、前者のグループのファシリテーターは、その障害をいかに乗り越えられるか、またはその障害が予見されたらその障害を起こらないようにして、課題解決がスムーズに行われるようにファシリテーションすることを求められるでしょう。

一方、後者のファシリテーターは、グループメンバーがぶつかる障害をともに体験しながら、その障害をいかに乗り越えるのか、一人ひとりがどのようにその障害に立ち向かったり、相互作用を通してグループとして成長することを意識的に学ぶことができるかを支援することになるでしょう。

それぞれの働きには、障害を取り除くのがよきファシリテーションか?障害に対峙することがよきファシリテーションなのか?易経からの学びは、グループの目標は異なれど、共通した視点を提供してくれるかもしれないと感じています。もしかすると、より体験から学ぶことを意識したファシリテーターにヒントをくれるかもしれません。

 さて、易経との出会いは、シリーズ(00)で書きましたが、直接私の心に届いたのは、2014年7月19日(土)に、竹村あっこちゃんの直接お話を聴く機会があったことからです。その時の、ノートを恥ずかしいながら(といいながら、見せたがりなのですが)アップしておきます。

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 その時のテーマが、3つ。(1)「四季と時中」、(2)「変易・不易・易簡」、(3)「陽の力と陰の力」でした。これらのテーマには、たっぷりと易経のエキスが一杯詰まっているのだろうと思います。少しだけあっこちゃんの話を聴いただけで、わかった気になる軽い乗りのつんつんこと津村ですが、お許しを願って、これらのテーマを切り口でファシリテーションを考えていきたいと思います。

 やっと、入り口に入りかけて、易経のドアを開けたところです。
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2014年07月25日

易経に学ぶファシリテーション(01)

■ファシリテーター、ファシリテーションとは■

 本シリーズを書き始めますと宣言してから4日も経ってしまいました。いよいよスタートします。

 まず、ファシリテーターやファシリテーションについていろいろな考え方や定義があろうかと思いますが、津村(2012)は、下記のように定義させて頂いています。

「ファシリテーターとは、プロセスに働きかける(介入する)ことを通して、グループの目標をメンバーの相互作用により共有し、その目標達成することとメンバー間の信頼感や一体感を促進する働き(ファシリテーション)する人」と考えています。

 この定義の中のキーワードは、「プロセス」、「グループの目標」、「目標達成」、メンバー間の信頼感」でしょうか?

 「プロセス」は、グループの中で話し合っている話題である「コンテント」と対比して、グループの中で起こっていること(関係的な過程)を指しています。テーブルの上に乗って議論している活動内容「コンテント」と同時に比喩的に言うならテーブルの下で起こっている「プロセス」も大切にしながら関わることがファシリテーションでは大切になります。いわゆる議題をアジェンダと呼ぶように、テーブルの下で起こっていること(プロセス)をヒドンアジェンダ(hidden agenda)と呼んだりします。プロセスの考え方はこのヒドンアジェンダから来ているのではないかと思います。ファシリテーターが、議論の中に飛び込んでしまったのでは、メンバーと変わらないし、影響力が強い人であるならば、ファシリテーターではなくリーダーと呼ぶ方がふさわしいかもしれません。

 今グループの中に起こっていることに光をあてながら、まずは、グループが取り組む「目標」を明確にしたり共有したりすることを支援するのがファシリテーションの大切な働きになるでしょう。そして、その目標のもと「目標達成」と「人間関係の維持と形成」に向けてグループのメンバーが自立的に動けるように働きかけていくのがファシリテーションといえるでしょう。このファシリテーションの視点と働きかけはかなり複雑で、とても難しい技能を必要としています。

 これらの働きの極意を「易経」(竹村あっこちゃん著)から学ばせていただこうと考えたのです。

 またまた、序章で終わりました。次回こそ、「易経」の入り口に立ちたいと思います。
posted by つんつん at 14:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 易経とファシリテーション

2014年07月21日

易経に学ぶファシリテーション(00)

■易経からファシリテーションを学ぶきっかけ■

 しばらく、いやひょっとすると長く、「易経に学ぶファシリテーション」シリーズをブログに掲載していくことになりそうです。なりそうというのは、いつまでこのテーマで書き続けられるかわからないので、しばらくと書きましたが、私の予感としては、かなり奥深い易経を考えると、かなり長くいつまでこのシリーズが続くかもしれません。

 そして、タイトルも「易経とファシリテーション」『ファシリテーションと易経」としようかとも考えたのですが、ここは対等な関係ではなく、素朴に易経の教えから学ぶファシリテーションを考えるということが自然の流れだろうと思い、上記のタイトルとしました。

 易経と出会いは、2014年4月16日(水)にFAJ中部のメンバーである小椋さんに易経研究家の竹村亞希子さんを紹介され、夕食&カラオケをご一緒する機会があったのが始まりです。その時いただいた一冊の御著「超訳・易経」そして、あれから3ヶ月の7月19日(土)にやはり小椋さんたちの企画で「易経・ファシリテーション:マインドを学ぶ」のFAJ中部支部110回定例会に参加して、竹村あっこちゃん(と呼んでいいということなので)の直接のお話を聴くことができました。ファシリテーションを考える視点として易経の視点がとっても刺激になりました。直感的に、易経がファシリテーションの極意を教えてくれると言ったらいいでしょうか。

 今回のシリーズのブログ掲載のお話は、「超訳・易経」2012(角川SSC新書)とあっこちゃんの近著「リーダーの易経」2013(角川SSC新書)を引用させていただくことになります。詳細は、書籍をお読みください。

 というまえおきで、今回のシリーズのはじまりとさせていただきます。

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プロセス・エデュケーションが必要な訳(06)

 人間関係とは何か?また、私とは誰か?といった問いに答えるために、いろいろな回答が可能かもしれない。しかし、私のアイデアには、人間関係とは、私という人間、あなたという人間を誕生させる場として人間関係があると考えがあります。他者と出会うことによって、私は誕生し、その他者との関わりを通して、私が育つと考えています。また、逆に、わたしとの関係で、あなたが生まれ、あなたを育てていくことになるのです。このことは、関係的存在としての私であり、あなたである。人間であると考えています。
 この話は、下記のURLのYOUTUBEにてミニレクチャーとして語っています。よろしければ、ご試聴ください。
 https://www.youtube.com/watch?v=C0PdcBOBYec
 それゆえ、関係を通して自分を発見し、理解することができるといった考えの基では、人と出会う場を作り、そこで自分の姿を内省したり、他者の姿を観察したりしながら、人間理解を深めていく学びの場が必要になるのです。この場づくりがプロセス・エデュケーションの核となる考えです。

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2014年07月19日

プロセス・エデュケーションが必要な訳(05)

 ダニエル・ピンク氏著の「ハイ・コンセプト『新しいこと』を考え出す人の時代」の中でコンピューターにできなくて人間だからもつ力が大切になるといっています。
ピンク氏によると、6つの感性(センス)がこれからの時代必要であると述べています。
   1) 機能よりも、デザインをする力
   2) 議論よりも、物語ができる力
   3) 個よりも、全体のシンフォニー(調和)がはかれる力
   4) 論理でなく、共感する力
   5) まじめだけでなく、遊び心があること
   6) 物よりも、生きがいを感じる力
 これらの6つの力が、新しい時代に新しいことを生み出すために必要な力として、焦点づけられています。まさに、これらの力は、人と人との関わりの中で、自らの内省力と他者からのフィードバックの力を借りながら、自分自身を育てていくことになるのだろうと思います。
 自らが体験の中に身を投げ込み、その中で起こっていることを感じたり、見たりしながら、物語力、調和力、共感力、遊び心が育つのではないかと考えられます。また、そうしたことを通して、生きがいを感じ見いだすことができるようになっていくのでしょう。
 最初のデザイン力に関しては、私は、あらゆる場面で、このデザイン力は問われてくると思います。教育現場において、教育者が学習者にとって、気持ちよく学べる環境作りは大切でしょう。もちろん、ファシリテーターにとって、その場が参加者にとって心地よく、そしてそこに集った人々のゴール(目標)が達成できるように促すことが、ファシリテーション力であり、デザイン力であると考えられます。
 以上のようなことは、プロセス・エデュケーションの実践を通して、育てていくことが可能になると考えています。
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2014年07月18日

プロセス・エデュケーションが必要な訳(04)

 私たちの学習の領域には、ベンジャミン・ブルーム(1956)によると「教育目標のタキソノミー(分類学):“Taxonomy of educational objectives”として、3種類の学習領域があることが示されています。
(1)認知的領域(cognitive domain)
 一般的に知的な理解、概念的な理解が深まる学習領域をさし、組織的原理として精神的操作の複雑化であると考えられ、目標は知識→理解→応用→分析→統合→評価というかたちで高次化していくと考えられています。
(2)情意的領域(affective domain)
 学習に対する意欲や態度であり、組織的原理は価値・態度の内化といわれ、目標は受容(注意)→反応(興味)→価値づけ(態度)→価値の組織化(人生哲学)→価値または価値複合体による個性化(ライフスタイル)というかたちで高次化・内化すると考えられています。
(3)精神運動的領域(psychomotor domain)
 モータスキル、運動、技術にかかわる学習領域であり、組織的原理は神経系と筋肉系とのあいだの協応の達成が高まることです。デイヴの枠組みでは、模倣→巧妙化→精密化→分節化→自然化と高次化するとされています。
 このような三種類の領域において、学習を達成し、個人の力を育成することを考えると、いわゆる座学による教授学習形態では不十分であることはおわかりいただけると思います。特に(2)の上位的領域に関して、学ぶことへ意欲ややる気、また自分自身の生きるありようを身につけるためには、他者の話をただ聞き、インプットするだけでは不十分でしょう。他者とともに、活動をともにし、その人の姿を見たり、自分の姿を見たり、また他者と関わる体験を通して自分自身が揺さぶられたり、確信をもったりしながら、自分の物事や人への態度を形成していくことになるのでしょう。
 さらに、(3)精神運動的領域の学習に関しては、さらに体験を通して学ぶことの必要性は十分理解されるでしょう。自動車免許証をとろうとする場合には、最初に道路交通法やメカニカルな知識の理解のために、座学的な講習を受けたとしても、実際に実地体験がない人が車を適切に動かすことが難しいことは理解できるでしょう。運動技能は、やはり体験を通して学ぶことが必要になります。
 (1)認知的領域においてさえ、座学で一方的に知識の伝達、また文献などを読み研究を進めることで知的理解は深まるにしても、そうして獲得した知識を他者との交流を通して、確かなものになっていくのだろうと思います。
 これらの理由より、体験を通して学ぶ「プロセス・エデュケーション」は欠かせない学習アプローチとよべるのではないでしょうか?また、体験学習の循環過程の考え方には、体験を通して学ぶことだけでなく、認知的に学習することを好む人たちにも、また好まなくても認知的な学習の必要性も、逆に重要な視点としてもつことが考えられています。このことは、また別の機会にお話ししたいと思います。
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2014年07月16日

30年ほど前にTグループで出会った方との再会!

 7月14日(月)、午前11時30分に待ち合わせ。ハイヤーで南山大学北門に来られました。
 この方は、今は、大きな企業の副社長の要職をつとめられていらっしゃいます。

 私自身の今年一年の一つの区切りの年にあたり、一度お会いしたい方の一人でした。
 Tグループ参加から、私がTグループのファシリテーターとしてレビューし始め、ひよこの時代に出会った方です。久しぶりにお会いしてお話をしている中で、かなりきついことを津村は言ったようです。今から思えば恥ずかしい限りです。が、そうした津村の発言に、私は私の思いを語ればよいと強く思われたようです。それは、私の言葉に同意したというよりは、反発的な感情も伴っていたのかもしれません。それが、それとして、体験からの学びになっていると強く語ってくれました。また、体験を通して学ぶことはいろいろあると、学ぶことへの強い確信のようなものをお持ちのようでした。

 あれから、長い年月の中で、今でも、また今日、さらに確信として、体験学習を全社的な取り組みとして、実施されています。それは、すごいです。上述の体験学習への強い思いがあっての取り組みです。

 その体験学習は、2泊3日行われるそうです。その体験学習の宿泊研修には二つの柱と言うか、大きな要素があります。一つは、参加者が、部長クラス、執行部クラスから、入社2〜3年目の若い社員が混ざった異世代交流であることが特徴です。縦割りの異年齢のメンバーで構成されたグループで2泊3日を体験学習により過ごすのです。そして、全社あげてすべてのメンバーが参加するように、一度に35人前後の合宿を行い、同様の合宿を何十回とやられているのです。
 もう一つの特徴は、体験学習のふりかえりは、よかったこと、成功体験を拾いだしふりかえりを行っているのです。成功体験が次の成功体験を生むという考えです。

 これらのことは、ホールシステムアプローチの考え方であり、またAIアプローチの考えたです。ただ、この体験学習を導入されている方は、こうした横文字のアプローチをまったく知らずに、経験知をベースに取り組まれているのです。

 Tグループを終えた後に、説明し、配布されたGIBBの4つの懸念。この4つの懸念をいかに低減し、信頼し合う関係づくりを組織の中に生み出すか、それを一途に、取り組まれてきたと語ってくれました。

 ホールシステム・アプローチの方法論やAIアプローチの進め方の問題ではなく、執行役員はじめ上層部が本気で社員相互の関係(自分も含めて)信頼し合える関係にしようとするか、それを実現しているかどうかが大きいように感じました。

 長く、Tグループをはじめ、ラボラトリー方式の体験学習に関わってきた身としては、大いに刺激を受けると共に、励まされ、またこれからの歩みに自信を与えてくださいました。感謝です。
 また、どうしても組織開発の方法論に走り出しそうになるのですが、企業組織の中にいる人間が何を望んでいるかを明確にし、それを充足することが組織開発の核になるのでしょう。
 もう一度、現在までの自分の歩みをふりかえり、2015年度からのスタートを、いや今からの自分の歩みを、再吟味しようと思います。

 最後になりますが、この方が現在所属されている企業は、本当にここ数年右肩上がりの成果を生み出しているのです。このことが、体験学習による宿泊研修の必要性と意義を主張できる、大きな支えになっているようです。
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2014年07月07日

プロセス・エデュケーションの出版ご案内(遅ればせながら)

「プロセス・エデュケーション」というタイトルのブログを始めてから、やっと2012年10月に金子書房さんより同タイトルの出版物を刊行することができました。おかげで今は、第4刷に入ったようです。ありがたいことです。一度、書店で、もしくはネットでご覧ください。そして、できれば手にとっていただき、「プロセス・エデュケーション」の実践者になっていただきたいと考えています。よろしくお願いします。
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posted by つんつん at 16:55| Comment(0) | TrackBack(0) | プロセスエデュケーション

プロセス・エデュケーションが必要な訳(03)

 佐藤学氏(2006)は、学びというのは、基本的に「協同」であると考えています。彼は、デューイやビゴツキーの考えをベースに、学びとはコミュニケーションであると考えています。彼によると、「学び」とは、モノ(対象世界)との出会いと対話、他者との出会いと対話、自分自身との出会いと対話が三位一体となって遂行される「意味と関係の編み直し(re-contextualization)」の永続的な過程として定義されています。
 彼の考えに従うと、学びとは一人で行動変容や認知構造の変容が起こるのではなく、他者と交流する過程において生起すると考えられるのです。学びが成立するためには、おのずと小グループで学ぶ場づくりが必要になります。こうした学びを核とした「学びの共同体」づくりを、彼は学校改革の哲学に据えているのです。その哲学に「公共性」、「民主主義」、「卓越性」をあげています。学校は多様な人々が学び合う公共空間であり、すべて子供の学びの権利を実現する公共的な使命をもっているのです。そして、彼は、その「公共性」の原理は「民主主義」の原理に支えられており、それは多様な人々が協同する生き方(a way of associated living, デューイ)の哲学が根底にあると述べています。「卓越性」では、学びの場で自他のベストを尽くして最高のものを追求する態度の必要性を説いているのです。
 プロセス・エデュケーションでは、佐藤の言葉を借りるならば、これらの哲学がどのように実現できているのか、そしてその実現をめざしてどのようなかかわりが大切になるのかを、子ども同士の関係の中で、また子どもと教師との関係の中で、またはすべてを存在する教室という場の中でおこるプロセスという関係的視点から吟味することを目指しているのです。「今ここ」で、何が起こっているのか、しっかり見つめて、その場から生まれるプロセスを大切にしながら、学習者と教育者がともに学び合う場づくりが生まれることを実現するための態度とスキルを育てることができるのではないかと考えています。
 引用文献:佐藤学(2006).学校の挑戦−学びの共同体を創る 小学館 p.299.
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2014年07月06日

プロセス・エデュケーションが必要な訳(02)

 前回のブログでは、「自分で考える」ことの必要性、アウトプットがよければ、それでよいということなのだろうかということを書かせていただきました。そこには、人間にとって学ぶことが大切であるという考えがあります。そして、学びはとは何かを考えておく必要があります。
 人間が学ぶこと、それは環境の変化をとらえその変化に対応できるようになることといえるかもしれません。
 アージリスとショーン(1996)は、組織における学習プロセスには、シングル・ループ学習とダブル・ループ学習があることを提唱しています。シングル・ループ学習とは、問題状況に対してある解決策(モデルや理論)が示され、その行為とその結果で学習が成立している学習を指しています。シングル・ループ学習とは、花を咲かせるには、水が必要であると学び、水を絶えず切らさないように水やりを続ける行為といえばよいでしょうか。しかし、水を切らさずやっているにもかかわらず、花が咲かないことが起こります。それは、光がどのようにあたっているのか、室温はどのように維持されているのか、など背景にある変数に気づくプロセスをダブル・ループ学習とよばれます。
 ベストな結果が得られるだけの方法が与えられる学習では、環境の変化に気づき、その変化に対応できる学び方を学んでいるとはいえないでしょう。
 ラボラトリー方式の体験学習の循環過程を学ぶことは、まさにダブル・ループ学習のアプローチを学ぶことでもあります。行為(体験)を通して、何が起こっているのか(結果の観察)に気づき、なぜその結果になっているのか(分析)と背景にある変数を考え、新しい行動仮設を立てて、学習を展開していきます。体験から学ぶということは、まさにダブル・ループ学習を学ぶ機会になっているのです。
 このように学びは、他者から与えられるものではなく、自らが発見する過程を学ぶことであるといえます。
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